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杉原泉 研究内容

単一軸索の投射パタンの解析

 神経系の機能上・構造上の重要な単位は、個々の神経細胞(ニューロン)です。従って、神経系の機能と構造を理解するには、個々のニューロンの機能と構造を理解するのが基本になります。しかし、ニューロンのかなりのものは、非常に長い軸索を持っていて、それが遠く離れたニューロンにつながっています(投射)。個々のニューロンの投射パタン、すなわち軸索がどのように延びていてどのように枝分かれし、どこに連絡しているか−という基本的なことが、はっきり明らかにされているものは、実はほとんどありません。多数のニューロンの集団の大まかな投射パタンは多くのものに関して分かっています。しかし、その見方では知ることのできない神経系の精緻な構築の様子が、個々のニューロンの投射パタンを明らかにすることにより見えてきます。

 私たちは、少数のニューロンの標識法と、連続切片からの単一軸索再構築システムを開発・改良してこの解析が効率よくできる研究環境を開発して来ました。主にラットの小脳の入出力軸索を見ていますが、方法自体は広く応用可能です。学生が行った単一軸索再構築も含めて発表してきています。発表データの一部は、著名な神経科学や神経解剖学の国際的教科書の図に採用されています。


小脳の機能区分の解析

 神経難病の一つである小脳変性症、あるいは脳血管障害や外傷により小脳が冒されると、主な症状として、いろいろな体の運動がスムーズにできなくなり、包括的に「運動失調」と呼ばれる症状が見られます。大脳、脊髄や末梢神経の障害によって見られる運動麻痺とは異なり、運動はできるのですが大変ぎこちなくなってしまいます。正常な小脳による運動制御は全く意識されることなく巧妙に行われるため、小脳が起こされた場合に起きる運動失調の動作を正常な小脳を持つ人がまねてみることはほとんど不可能です。小脳がどのようにして運動制御をおこなうかということは大問題でその本質の多くはまだ解明されていません。しかし、ひとつのヒントは、小脳には場所による機能区分がかなりあるということで、小脳のどの場所が傷害されるかにより、歩行運動に運動失調が現れたり、手の細かな動作に運動失調が現れたりというように、異なる種類の運動失調が出現します。小脳の働き方を研究しているグループは数多くありますが、私たちは、小脳の機能区分を正確に突き止め、そしてその中での神経回路の構築を、上記の単一軸索の投射パタンの解析結果をふまえて明らかにし、そしてその回路の働きが特定の運動の制御にどのように反映するかを検討していくという独特の研究を行っています。

 これまで、小脳の機能区分は、入出力の軸索投射パタンによって明確に規定されるということ、さらに、小脳プルキンエ細胞集団の分子発現パタンが機能区分の決定に深く関与しているということを明らかにしてきました。